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移住者インタビュー

人とのつながりが生み出す、新しい表現。呉で出会った仲間と「面白いこと」をカタチに

小野 豊一 さん /岡 美希 さん

2025年 広島県北広島町 → 大分県国東市 → 呉市川尻町(Uターン)

豊一さん:北広島町出身
よつめ染布舎 主宰/染色家・デザイナー

美希さん:広島市出身
陶芸作家

家族4人(子ども2人)

interview:2026.06.17

自然や風土をモチーフにした文様を手作業で染め上げた型染め作品やデザインを手掛ける小野豊一さんと、大好きなニワトリの作品や、手びねりならではの不揃いでおおらかな形の器などを制作する陶芸家の岡美希さん。
大分県国東市から家族4人で移住し、ニワトリたちと暮らしながら、創作活動を行っています。

美希さんの祖母がかつて銭湯を営んでいた築46年の建物を改修したギャラリーショップ「すずめ草」には、市内外から多くの人が訪れます。「人とのつながりが、新しい表現や仕事を生み出してくれる」と話す二人。呉でできた仲間たちとともに、軽やかに活動の輪を広げています。

お二人の経歴を教えてください。

豊一さん:僕は広島県北広島町の出身で、実家は染物店を営んでいます。県外で就職した後、2008年にUターンして家業に入り、型染職人として経験を積んでいきました。働く中で、だんだんと「別のまちで型染めとデザインで独立したい」という気持ちが芽生えていったんです。

美希さん:私は広島市の出身ですが、2007年から北広島町に陶芸工房を構えていました。北広島を拠点に日本各地やアメリカ、オーストラリアで活動する中で「新しい土地で、新しい挑戦をしてみたい」と考えるようになりました。

結婚して上の子が生まれて、「家族で移住するのもいいんじゃない?」と話すようになったんです。二人とも九州に憧れがあったことから、移住先には温暖で自然豊かな大分県国東市を選びました。「国東半島芸術祭」が行われるなど、アーティストへの理解もある土地。そこで10年間、ギャラリーショップを営みながら暮らしていました。

豊一さん:僕は国東へ移った後の2014年に「よつめ染布舎」を立ち上げました。のれんや服、手ぬぐいなどの型染め作品を制作するほか、アパレルや食品パッケージなどのデザインも手掛けながら、九州を中心に仕事の幅を広げていったんです。

家族でUターンすることを決めた経緯は?

美希さん:コロナ禍に、下の子どもを出産したんです。当時はどこの地方も似たような状況だったと思いますが、私たちが住んでいた場所も県外の往来に厳しく、広島県に帰ることもできない日々が続きました。

2年が経ち、ようやく北広島の実家に家族4人で帰省できたとき、両親が本当に喜んでくれて。うれしさと同時に、たった2年会わないだけで親の「老い」をひしひしと感じたんですよね。これからはすぐに顔を見せられる距離にいたい、そんな気持ちから「子どもを連れて広島県に帰る」と彼に伝えました。

豊一さん:切り出されたときはとにかく驚きましたね。当時の僕は九州に多くのクライアントがいて、「今ここを離れるなんて…」とかなり戸惑いました。でも彼女の決意は固くて、「それぞれ別の場所で暮らすのもいいんじゃない?」とまで言われて(笑)。話し合う中で、ケンカもしましたよ。

けれど、子どもたちと離れて暮らす生活は考えられなかった。それに人口の多い広島県では、新しい仕事の可能性もあるんじゃないかと思ったんです。最終的には上の娘が中学校、下の息子が小学校に上がるタイミングで、家族みんなで広島に戻ろうと決めました。

移住先を呉に決めた理由は?

美希さん:移住を決意したものの、理想の物件にはなかなか巡り合えなくて…。広島県の空き家バンクをチェックして、気になる物件を見つけたら市町を問わず片っ端から足を運んでいました。

私たちの条件は、夫婦ともに創作活動をしているためギャラリー兼工房を構えられる空間があること。そして、国東の暮らしと同じようにニワトリを飼える環境であることです。

さらに外せなかったのが、JRの駅が徒歩圏内にあること。国東のように公共交通機関が少ない土地だと、子どもは親の送迎がないとどこにも行けません。我が子には、自分の行きたい場所には親の手を借りずに行ける自由を経験して、やりたいことに自力でアクセスする力を育んでほしかったんです。

豊一さん:2~3年ほど探しても、条件に合う物件は見つかりませんでした。転機となったのは、2024年に墓参りで呉を訪れたことです。

美希さん:私の祖母が営んでいた元銭湯を、管理していた叔父が紹介してくれたんです。見せてもらうと母屋だけでなく、二人の工房にできそうな広い倉庫や、ニワトリを飼える土地もある。さらにJR川尻駅から徒歩5分。「ここしかない!」と即決でした。

2025年に家族で移住し、番台など当時の面影を残しながら、建物の1階をギャラリーショップへと改修しました。そして2026年4月、私たちの作品を展示販売する「すずめ草」をオープン。現在は毎月第1・3土曜日に営業しています。

移住後、創作活動や仕事に変化はありましたか?

豊一さん:瀬戸内の穏やかな自然はもちろんですが、それ以上に、呉で出会う人や土地の文化が新しいインスピレーションをもたらしてくれます。

移住してから新しく生まれたものの一つが、「お好み焼き」の文字をモチーフにしたテキスタイルデザイン。このデザインをきっかけに、地元のお好み焼き店と一緒にイベントを開くことが決まりました。また、音戸の牡蠣生産者・中野水産さんとのコラボイベントや、牡蠣をテーマにしたグッズづくりも始まっています。

「すずめ草」のオープンイベントには昔からの広島の友人知人が駆けつけてくれて、そこからさらに新しいつながりの輪が広がっています。呉でできた友人たちと、新しい活動を始められることにすごくワクワクしていますね。今、「すずめ草」の仕事を手伝ってくれているスタッフも、移住後に知り合った女性なんですよ。

美希さん:呉には家業を継いで、これからの地域を担う40〜50代の同世代が多いんですよね。すぐに仲良くなって「一緒に楽しいことやろうよ!」と意気投合できる。車で2時間かかるような距離ではなく、気軽に飲みに行ける場所に暮らしているからこそのスピード感かなと思いますね。

豊一さん:さまざまな経験を積んで、いい意味で肩の力を抜くことを覚えた40代で移住したからこそ、「遊びから仕事に発展する」という軽やかな挑戦ができていると感じます。

美希さん:二人とも全国にそれぞれ取引先があり、これまでの仕事は変わらず続けています。そこに、呉での新しい活動が加わっているという感じですね。私自身は子どもたちのサポートをしながら少しずつ作陶を再開しています。

移住後、お子さんたちにはどんな変化がありましたか?

美希さん:家の近くに駅があることで、娘は行きたいところへ自力で行けることが自信になっているみたいです。小学校6年生での引っ越しだったので親としては不安もありましたが、中学校に上がった今は親の同伴なしで友達と出かけて、自分の好きなことをできるのが楽しいようです。

一方で、息子は国東で赤ちゃんの頃から同年代の子どもたちと兄弟同然に育ってきたので、新しい環境に戸惑いがあるのが正直なところです。国東と全く同じ環境というわけにはいきませんが、今は放課後等デイサービスや相談支援員さん、利用できる行政サービスを最大限に活用しながら、息子のペースで少しずつ新しい環境に慣れていっているところです。

呉の人々の印象は?ご近所との関係はいかがですか?

豊一さん:呉の人はコミュニケーションが活発で、人との距離が近いですよね。

美希さん:私たちは、夫婦ゲンカの声が外に聞こえたって全然かまわないですから。今や、私が静かにしていたら「調子悪いんか?」ってご近所さんに心配されるくらいです(笑)。

それと、ここで暮らしていた祖母との思い出話を聞かせてもらえるのがうれしくて。「あんたのおばあちゃんは『金払え!』と言いながら、お金のない人にもお風呂に入らせてあげとったんよ」って。人情に厚い人が多いですよね、呉は。

豊一さん:妻の親族とつながりがある人たちが、僕たちを助けてくれるんです。地元の方々がよく口にするのが、「ゼニカネじゃない」という言葉。ギャラリーショップの改修工事など、本来ならお金が発生するようなことも「呉に来てくれたことがうれしいけぇ」と手伝ってくれて。本当にありがたいなと思います。

もちろん、お叱りを受けることもあります。でも、面と向かって言ってもらえるほうがありがたいですよね。こちらも「すみません!気を付けます!」と素直に受け止めていると、少しずつ信頼関係ができていく。その積み重ねの先に、「ゼニカネじゃない」という言葉に表れているような、人情味のある助け合いが生まれるんだろうと感じています。

「すずめ草」を通して、どんなことを実現したいですか?

豊一さん:今の時代、モノの価値って値段だけでははかれないですよね。100円ショップの商品だって十分に丈夫で、デザインも良いものがたくさんある。では僕たちがどこで勝負できるかといったら、それは「場」だと思うんです。作品が生まれる工房の空気感やにおい、ニワトリたちがのびのびと過ごしている風景、呉という土地の雰囲気などを、お客さんに感じてもらいたいですね。

呉も人口が減っていて、カルチャー系の個人店も街から消えつつあります。だからこそ、自分たちがギャラリーショップを運営したり、仲間とイベントを開いたりすることで、「こういう面白い人がいるんだ」と、地元の人たち、特に若い子の気持ちがちょっとでも明るくなったらいいなと思うんです。

同じ熱量で好きなものを語れる友人や、一緒に活動できる仲間が近くにいることの大切さは、僕自身もすごく実感しています。「すずめ草」を拠点に集まった仲間たちと、呉のまちで面白いことをどんどんやっていきたい。そしていつか、「型染めをやりたい!」「よつめ染布舎で働きたい!」という若い子が増えてくれたら最高ですね。

今後は呉市内で事務所用に新しい物件を取得する予定です。ゆくゆくは、そこで宿泊できる場所づくりにもチャレンジしたいと考えています。


小野さんの おすすめスポット

豊一さん:仁方から眺める瀬戸内海の景色が好きです。時間帯によって表情が変わって、夕焼けも本当にきれいなんですよね。やっぱり瀬戸内の海は、島々が浮かぶ風景に、ほかの海にはない魅力があると思います。

美希さん:私は野呂山です。暑い時期でも山に行くと涼しくて、四季の移ろいも感じられる。空気もきれいで落ち着きますね。市が運営する陶芸工房もあって、自分のアトリエを構える前は利用させてもらっていました。

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