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移住者インタビュー

走ることで見えてくる、地域の魅力。スポーツから生まれる島と都市の交流

株式会社アリー とびしま 代表取締役
地域おこし協力隊OB
高島 俊思さん

2015年 パラオ→呉市下蒲刈町
愛知県出身 Iターン
家族6人(妻・子ども4人)

interview:2026.05.27

7つの橋からなる「とびしま海道」で結ばれた、安芸灘7島。そのなかで最も呉市本土から近い下蒲刈島に、地域おこし協力隊として移住した高島俊思さん。協力隊を卒業した現在も、レンタサイクル事業の運営補助や100kmマラソン大会「とびしまウルトラマラニック」の開催などを通じて、島に人を呼び込む取り組みを続けています。人口減少が進む地域で感じた葛藤も含め、島暮らしのリアルを伺いました。

移住のきっかけを教えてください。

僕は愛知県出身、妻は大阪府出身。夫婦でIターン移住でした。大阪の大学に進学し、卒業後は東京で就職。その後、パラオへ海外移住してツアーコーディネーターとして働いていました。

二人とも都会暮らしはあまり向いていないと感じていて、「パラオから帰国しても島暮らしがしたいね」と話していました。温暖な瀬戸内エリアで移住先を探していたときに、地域おこし協力隊の制度を知ったんです。

地域おこし協力隊として下蒲刈島を選んだ理由は?

帰国から1カ月後に、東京で開催されていた地域おこし協力隊の合同説明会に参加しました。そこに呉市が出展していたんです。下蒲刈島に長年暮らすおじさんも来られていて、お話を伺う中で島に興味を持ちました。ちなみに移住後、そのおじさんは「島のお父さん」のような存在になってくださり、本当に心強かったです。

そして地域おこし協力隊に応募する前、実際に現地を訪れたんです。そこで魅力に感じたのが、「島内に信号が一つしかないこと」でした。

信号のないパラオに6年間暮らすうちに、自分が行きたい場所へスムーズにたどり着けないのは、実はかなりのストレスだと気付いたんです。だからこそ、信号で足止めされることがほとんどない下蒲刈島に惹かれましたね。

また、島の爽快な空気や豊かな自然に触れて、ここでなら趣味の自転車やランニング、トライアスロンなどを心地よく楽しめると感じられたのも大きいです。

パラオで観光事業に携わっていた経験を活かし、スポーツと島おこしを掛け合わせられるのではないかと考え、2015年に夫婦で下蒲刈島へ移住しました。

地域おこし協力隊としてどんな活動をしていましたか?

一つは、レンタサイクル事業の立ち上げです。尾道市と愛媛県を結ぶ「しまなみ海道」には国内外からサイクリストが訪れる一方、とびしま海道の来訪者はまだ少ない状況でした。そこで、とびしま海道にも、観光客が気軽に利用できるレンタサイクルを導入しようと考えたんです。

呉市や広島県と相談しながら、仕組みづくりを進めていきました。その後、呉市内の企業・ビルックス株式会社に出資してもらい、下蒲刈島の施設「コテージ梶ヶ浜」でレンタサイクルをスタートできました。

協力隊卒業後は、同社の社員として梶ヶ浜の魅力化やレンタサイクルの事業に携わりました。現在は独立して株式会社アリー とびしまを設立し、業務委託として「コテージ梶ヶ浜」の運営のお手伝いをしています。現在はJR川尻駅にも自転車を設置しており、2025年の利用者は約1,000人。そのうち4分の1は海外からの利用で、少しずつ広がってきていると感じています。

移住後に感じた壁はありましたか?

地域おこし協力隊は、地域を元気にするためにその地にやって来ます。けれど、地元の方から「どうにもならんじゃろう」という声を聞くこともあって…。

最初はその温度差をもどかしく感じていましたが、やりとりする中で「そんな風に言うのも無理はないよな」と納得する部分もありました。下蒲刈島だけでも毎年約50人ずつ人口が減っているという現実があり、そうした厳しい状況を長年見続けていれば、前向きになることも難しいですよね。

だからこそ、言葉で説明するよりも、実際に地域が変わっていく過程を見てもらうしかないと考えるようになりました。

悩んだときにはどう乗り越えていますか?

「自分は期待されていないのかな」と落ち込んだときの支えとなったのが、「高島くん、やろうや!」と言ってくれる地域の人たちの存在でした。新しいことにチャレンジするとき、必ず背中を押してくれる人たちがいたんです。

同時に、慣れない土地で活動を続けていくためには、気持ちをセルフコントロールすることも大切だと思います。僕の気分転換方法はランニングですね。

下蒲刈島は一周約15kmで、走れば約1時間半で回れます。最初は「ああ、しんどいな…」と思いながら走り始めるんですが、1時間ほど経つと酸欠状態で深刻な考えごとができなくなるんです(笑)。さらに30分ほど走ると、アドレナリンの作用で気持ちが前向きになっていくんですよね。ランニングに没頭できる環境にも、救われているのかもしれません。

「とびしまウルトラマラニック」を始めた経緯は?

2018年、地域おこし協力隊員を卒業した年に「とびしまウルトラマラニック」を初開催しました。とびしま海道でつながる安芸灘7島を巡りながら、100km完走に挑戦できるイベントです。とびしまエリアの島々は景色の変化に富んでいて、走っていると本当に気持ちが良いんですよ。海や山、歴史ある街並みを楽しむことができます。

過去にとびしまエリアのおいしいものなどを集めたマルシェ「とびしマーレ」では、下蒲刈島の人口を超える来場者数を記録しました。また、島内を2周する約30kmのランイベントも好評で、地域の魅力を発信するイベントに手応えを感じていたんです。

僕は移住1年目の頃から、地域おこし協力隊のいない近隣の島々にもよく足を運んでいました。そのため、エイドステーションを15カ所設ける際も「あの島の〇〇さんにうどんをお願いしたら引き受けてくれるんじゃないか」など、協力してくれそうな人や施設がすぐに思い浮かびました。

大会を通じて、どんな広がりを感じていますか?

これまでに6回開催し、全国から500人以上が集まる大会へと成長しました。参加者の7割以上は東京・大阪・福岡などの県外からです。100kmマラソンは前泊が必須なため、島の宿泊や飲食に経済効果が生まれることもスポーツイベントの意義だと考えています。

16時間かけて7つの島を巡りながら、美しい景色や豊かな食、地元のおじいちゃんおばあちゃんたちの温かい声援や方言でのおしゃべりに触れる。ここでしかできない体験を通して、最終的には移住者を増やすことが「とびしまウルトラマラニック」の目的です。

参加者を対象としたアンケートでは、50〜60%が移住に関心を示してくれています。もちろん実際に住むにはそれぞれの事情やハードルがありますが、まずは島に来て、魅力を体感してもらうことが重要だと考えています。

また、アンケートには「島とどんな関わりが持てるか」という項目も設け、参加者からアイデアを募っているんです。例えば環境関係の仕事をしている方からは、子ども向けの勉強会などの提案もありました。

実際の取り組みとして、参加費の一部を活用し、島に住む子ども約60人にランニングシューズをプレゼントしました。「とびしまウルトラマラニック」大会開催時には、子供達はそのシューズを履いて選手達と一緒に走りました。

子どもたちにも「きっかけさえあれば、これだけ多くの人が自分たちの島にやってくるんだ」ということを伝えていきたいですね。今後も、地域と参加者が深く関われる企画を検討中です。

現在の暮らしについて教えてください。

地域おこし協力隊2年目に第1子、3年目に第2子が生まれました。現在は島内で一軒家を借りて、4人の子どもを育てています。みんな島内の小学校や保育園に通っています。

夫婦ともにパラオで暮らした経験から、子どもたちには自然の中で育ってほしいという思いがありました。下蒲刈島は、子どもたちにとってすごく良い環境です。

都会のマンションではバタバタと足音を立てるのもはばかられますが、ここではのびのびと子育てができます。だからこそ、地域おこし協力隊の任期終了後も定住したいと思ったんです。

実際に島で子育てをして感じることは?

海の生き物を捕まえて、それを近所のおじちゃんにさばいてもらって食べる。そんな島ならではの体験もできる一方、大変なことももちろんあります。

僕たちは二人ともIターン移住者なので、近くに親族はいません。だから子どもが熱を出したら、夫婦どちらかが仕事を休まざるを得ない。ただ、僕は自営業なので、ある程度は時間の融通が利きます。17時過ぎには帰宅してお迎えやお風呂、寝かしつけなどを済ませ、子どもたちが寝た後に仕事の続きをしています。

妻は呉市内で、小学生、未就園児が放課後に集まる事業所に勤務しています。下蒲刈島から呉市街地までは車で40分程度とアクセスも良く、通勤や子どもの病院受診などで困ることはほとんどないですね。島と街の距離感がちょうどよく、暮らしやすいと感じています。

移住者支援の取り組みについて教えてください。

移住者だからこそ感じることや悩みなどを分かり合える仲間がいたことは、本当に大きかったですね。そんな経験から、「呉市移住者交流連絡協議会(KURETO協議会)」や「広島県地域おこし協力隊ネットワーク(HiLoBA)」などを通じて、移住者同士がつながれる場づくりや、現役の地域おこし協力隊の支援、地域と人材のミスマッチを防ぐ取り組みなどに力を入れています。

地方移住を検討している人にとって、住まいと収入が確保されている地域おこし協力隊は魅力的な制度だと思います。移住後も3年かけて、地域に馴染みながら定住に向けて準備もできますから。僕たちも自身の経験を踏まえてサポートしていきたいと思っているので、移住候補地に呉市を加えてもらえたらうれしいですね。


高島さんのお気に入りスポット

【しげ島】
下蒲刈島の南西、県道沿いにある、歩いて渡れる海上にある岩です。ベンチに座って夕陽を眺めながら飲むビールは最高。移住したばかりの頃、よく夫婦でたそがれた思い出の場所です。ちなみにベンチを置いて観光地化したのは私です(笑)。

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