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移住者インタビュー

島の「ヒーローズ」とともに作った古民家カフェをオープン

上田 咲さん

2018年 沖縄県 → 広島県呉市蒲刈町(上蒲刈島)
広島県呉市(旧音戸町)出身
古民家カフェ『tete&tete』経営

interview:2022.12.23

呉市音戸町出身の上田咲さん。平成30年7月豪雨災害で、上蒲刈島にある祖母の家が被災したことをきっかけに、当時住んでいた沖縄を離れて上蒲刈島に移住しました。土砂で埋もれた家の片付けを一人で始めたところ、島民たちが手伝ってくれるように。助け合いの精神が根付いている島の人たちの助けを得ながら、上田さんは祖母の家を改装してカフェ『tete&tete』をオープン。地元住民の憩いの場でありながら、島外からもたくさんの人が訪れています。現在は上蒲刈島と東広島市の2拠点で暮らす上田さんに、島の魅力や2拠点生活のメリットなどを聞きました。

上蒲刈島に移住した理由は?

私は生まれてから高校卒業までを呉市の音戸町(倉橋島)で過ごしました。上蒲刈島には祖母やいとこが住んでいて、よく遊びに来ていたんです。
平成30年7月豪雨災害で、祖母の家が被災してしまって。当時は沖縄に住んでいたのですが、子どもの頃の思い出がたくさんある家の惨状を写真や映像で見て、信じられない気持ちでした。

翌年、祖母が介護施設に入居するタイミングでこの家に移住し、被災をまぬがれた離れで生活を始めました。保育士の資格を持っているので、上蒲刈島の隣の隣・大崎下島にある保育所での勤務も決まり、しばらくは土砂で埋もれた母屋を横目に通勤する日々。「どうにかしたいな…」という気持ちはずっとありました。

カフェを開業するまでの経緯を教えてください。

親族で相談した結果、母屋を解体することに決まって。本当に被害が大きかったので仕方がないと分かってはいるけれど、ここは祖母にとっても、私にとっても大切な家。せめて最後はきれいにしてあげたいなと思い、保育士として働く傍ら、土砂をかき出すなど片付け作業を始めました。

毎日一人で作業をしていたら、近所の方々が自然と手伝ってくれるようになったんです。「困っとる人がおったら、助けるのが当たり前」って言いながら…。

上蒲刈島には昔から「合力(こうろく)」という言葉があって、住民同士で助け合って生きていく文化が根付いているんですよね。
今でこそ上蒲刈島と本土は橋でつながっているけれど、昔は島外に出る手段は船しかなかった。簡単に島外から業者を呼べる環境ではなかったから、島の人たちは何でも自分たちで作ったり、直したりしながら暮らしてきたそうです。

助けてくれた近所の方々を私は「ヒーローズ」と呼んでいます。ヒーローズは、家の改修もお手のもの。大工道具などを貸してくれるだけでなく、床や壁も直して、被災した築100年以上の古民家をどんどんキレイに蘇らせてくれたんです。おかげで母屋解体の話は無くなり、生まれ変わっていく家を見ながら、「ここを地元の人々のために活用しよう」と決めました。

ある日、作業途中にみんなで休憩していたとき「昔もようこうやって集まりよったのぉ」「みんなでお茶できる場所がありゃええよねぇ」という声が上がったんです。そういえば私が幼い頃も、大人たちがこんな風に集まってお喋りしていたなと思い出して。

沖縄在住時にはパン屋で修業していたので「お茶を飲む店くらいなら私にもできるかも」とは思いつつ、なかなか一歩が踏み出せず…。そんなときにヒーローズが「やったらええがぁ!わしらが何とかするけぇ大丈夫よ!」と背中を押してくれたんです。もう、やるしかないってさすがに腹を決めました(笑)。保育所を退職して、呉広域商工会や保健所、税務署などに足を運び、カフェ開業に向けて具体的に動き始めました。
ヒーローズの手を借りながら内装も整えて、2021年に『tete&tete』をオープンしました。店名には「たくさんの手と手が重なって生まれた場所」という意味を込めています。

上蒲刈島の魅力は?

この島の魅力は、なんと言っても人のあたたかさ。島外からやって来た人にも手を差し伸べてくれる優しさに、最初は「どうしてそんなに親切なの!?」と驚きました。
田舎の人間関係というと、排他的でギクシャクしているか、逆に関係が密すぎるイメージですが、上蒲刈島はつかず離れずの距離感でサポートしてくれる人が多いなって感じます。私の体調がすぐれないときはそっとしておいてくれて、元気になったらまたいつも通り接してくれるのがありがたくて。『tete&tete』がオープンした後も、ヒーローズは野菜や果物を届けてくれながらも、自分たちは店で出しゃばらないように…と見守り体制に徹してくれました。

助け合いと、ほどよい距離感。それから海が近くて、時間がゆっくり流れている感じ。上蒲刈島と沖縄には共通する部分があると感じます。私は中学校の修学旅行で訪れた沖縄の自然や大らかな雰囲気が忘れられず、沖縄県内の専門学校に進学したんです。
沖縄では友達のご家族や近所の方々にすごく良くしてもらいました。沖縄にも助け合いを意味する「ゆいまーる」という言葉があって、まさに上蒲刈島の「合力」と同じ価値観ですよね。学生時代に魅了された沖縄に似ているから、上蒲刈島での生活が肌に合っているのかもしれません。

『tete&tete』では、スパムおにぎりや野菜たっぷりのおかずをワンプレートにのせたランチ、島産レモンを使ったサーターアンダギー「かまドー」など、沖縄料理と地元食材を掛け合わせたメニューを提供しています。これには生まれ育った広島県と、第2の故郷である沖縄県への恩返しの意味を込めています。食べることでそれぞれの土地の特色を知って、興味を持ってもらえたらうれしいです。

島に溶け込むために心がけたことはありますか?

特別なことはしていないですね。移住先で自分のアイディアを実行するためには、地元の方々と信頼関係を築くことが大切。信頼は日々の何気ない会話やちょっとした行動から生まれるものだと思うので、普段からご近所さんとおしゃべりしたり、感謝の気持ちを伝えたりと、当たり前のことをやっています。

上蒲刈島のヒーローズに限らず、目の前で困っている人がいたら力になりたいという想いを持っている人は多いと思います。どこに移住しても、地域の人々とこまめにコミュニケーションを取っていれば、「合力」が生まれるんじゃないでしょうか。

上蒲刈島と東広島市の2拠点生活について教えてください。

お店の営業日や繁忙期は『tete&tete』の離れで生活して、定休日は両親が住んでいる東広島市の家で過ごすという2拠点生活を送っています。上蒲刈島から東広島市までは、東広島呉道路を通って1時間ほど。行き来するのが苦にならない距離です。
病院での定期健診や日用品などの買い出しは東広島市内で事足りるし、広島市内までもそう遠くないので、ショッピングや遊びに出かけることもありますよ。

カフェを開いてからの約1年半は、とにかく突っ走ってきました。オープン当初はずっと上蒲刈島で生活していたのですが、いくら仕事が楽しくても、身体と心をちゃんと休ませる時間を確保しなきゃダメだなと思いましたね。東広島市の家に帰ったら、頭をお休みモードに切り替えることができるんです。店から物理的に距離を取ることで、心身ともに健やかに過ごせるようになりました。

カフェを開いて良かったと思うことは?

思いもよらなかった交流が生まれていることでしょうか。お店ではこだわりのメニューを提供するだけでなく、席に料理を運んだときやお会計のときなどに、お客さんと少しでも会話をするように心がけています。これは商売未経験の私に、島の人たちが教えてくれたこと。例えば「ヒーローズが育てている柑橘はすごくおいしいんですよ!」といったささやかなコミュニケーションが、島の人たちと島外の人をつなぐきっかけになるんだって毎日実感しています。

ありがたいことに『tete&tete』がオープンしてから、たくさんのサイクリストさんやバイカーさんなどが上蒲刈島を訪れてくださるようになり、うちのお店でお客さん同士が仲良くなることも珍しくないんです。ここで出会った人たちが別の場所で新しいことを始めて、そこで出来た仲間を連れて再び『tete&tete』に来店してくださることもあって。つながりが広がっているのを見ると、カフェを開いて良かったなと思います。

『tete&tete』をどんな場所にしていきたいですか?

これからは上蒲刈島だけでなく、とびしま海道の4島(大崎下島、豊島、上蒲刈島、下蒲刈島)が元気になれる店にしたいです。『tete&tete』が4島の情報発信拠点の一つとなって、地域を盛り上げるためのアイディアが生まれる場所になるのが理想です。

また呉広域商工会さんがつなげてくれたご縁を活かして、地域活性化の活動もしていきたいと思っています。例えば耕作放棄地の活用方法をみんなで考えて、荒れ地が豊かになって、若い人たちの仕事も増えて、結果的に4島への移住者が増えるような取り組みができたらなと。

でも、あくまでも私の軸は「島のヒーローズが喜んでくれるかどうか」。ヒーローズとともに作り上げた『tete&tete』が、これからも島の人たちが集まって憩う場所であり続けられるように頑張っていきます!

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