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移住者インタビュー

自然豊かな島に暮らしてわかった、本当に自分が作りたいもの

おりで ちせさん

2015年 広島市 → 広島県呉市豊浜町豊島
広島県出身
イラストレーター・やきもの作家
家族2人  夫(漁業・農業)

interview:2023.07.28

広島市内で生まれ育った、おりでちせさん。パートナーの転職をきっかけにとびしま海道沿いの豊島に移住し、憧れていた「海の見える暮らし」を叶えました。イラストレーター、やきもの作家としても活動する彼女は島内にアトリエを構え、魚や虫、鳥などの生き物をモチーフにした作品を次々と生み出しています。島の自然に触れると創作意欲が湧いてくるというおりでさんに、島暮らしの魅力を聞きました。

豊島に移住した経緯を教えてください。

私は広島市の江波に生まれ、川や海を身近に感じながら育ちました。社会人になって江波を離れた後も、「海の見える場所に住みたい」という憧れをずっと抱いていたんです。当時付き合っていた夫にも、その想いを話していました。

大学卒業後は広島市内の印刷会社に勤めながら、イラストレーターとしても活動していました。主に東京の仕事を請け負っていたので、イラストの仕事は場所を選ばず働けると実感していたんです。大学時代、広島在住で全国的に活躍されている絵本作家の先生と出会ったことも大きいと思います。

豊島移住のきっかけは、夫の転職です。彼は飲食関係の会社員として広島市内で働いていましたが、私が「海のそばで暮らしたい」と言ったのを覚えてくれていて、海沿いのまちで水産関係の職を探し始めたんです。そして呉市の新規漁業就業者総合支援事業を利用して、豊島の太刀魚漁師に転身しました。組織で働くことに疲弊していた彼にとっても、一人で海に出る太刀魚漁は魅力的だったようです。

2014年にまず夫が単身で豊島に移住し、私は勤め先の後任を探す必要があったので、翌年秋に合流しました。

豊島の家はどうやって探しましたか?

夫は新規漁業就業者総合支援事業を受けての移住だったため、市役所の方が豊島での家探しに協力してくれました。ただ、そこは2人で暮らすには手狭だったので引っ越すことにしたんです。私が移住する前に豊島を訪れた際、夫がお世話になっているご近所さんとの雑談中に何気なく「家を探しているんです」と言ったら、なんと「空いている家があるよ」と教えてくださって。願ってもないタイミングで、すぐに入居を決めました。

しばらく住んでいましたが、坂の上に建っている家で車の乗り入れができないことや大家さんの事情などもあり、また別の家を探し始めました。島にはたくさんの空き家があるものの、移住者が借りるのはなかなか難しくて…。先祖代々受け継いできた大切な家や土地を、見ず知らずの人に貸すのは抵抗があるという人が多いんです。持ち主の立場からすると、その気持ちはもっともだと思います。

だから島での物件探しは、地元住民の情報とネットワークが頼りです。ご近所さんたちに「空き家を貸してくれる親族や知り合いはいないか」と相談して回り、2~3軒見つけた中から豊島の隣・大崎下島にある一軒家に決めました。築130年の古民家で、月の家賃は1万5千円です。都会ではありえない金額ですよね(笑)。豊島までは橋を渡り、車で10分ほどの距離です。

前回の家探しはトントン拍子で進みましたが、このときは半年から1年ほどかかりましたね。良い物件との出会いはタイミングによるところも大きいなと感じました。

移住して戸惑ったことはありますか?

最初は、島のお年寄りが話す方言が分からないこともありました。豊島の漁師さんたちは遠く九州まで漁に出ることもあり、広島弁、呉弁とも違う、いろんな地方のなまりが混じった独特の方言になっているんです。また、仕事柄大きな声で話されるので、「怒ってる!?」と戸惑うことも…(笑)。全然怒ってないんですけどね。でも、こちらもあえて方言を交えて喋るようにしていると心の距離が縮まり、ずっと聞いているとだんだんと聞き取れるようになっていきました。

呉市内の他の島々と同じく、豊島も外から来た人を温かく受け入れてくれる土地柄。島の産業を担う夫に、漁業関係の皆さんは単身移住当初からすごく良くしてくださったんです。私が移り住んできたときには夫と地元の方々との関係性ができていて、すぐに打ち解けることができました。

移住後の働き方について教えてください。

私は15年ほど前から、イラストの仕事とは別にオリジナルのポストカードや便箋といった紙モノ雑貨をはじめ、器やアクセサリーなどの陶芸作品を制作・販売しています。
移住後はフリーランスのイラストレーターとして独立し、2017年に豊島にアトリエショップ『Shimau.』をオープンしました。2階建ての建物を購入し、島内の建築業者さんに協力してもらいながら改装。2階がアトリエ、1階がショップになっています。

この島では、夫婦で船に乗って漁に出るのが普通なんですね。でも私は漁には行かないわけです。「絵を描いています」と説明しても、単なる趣味だと思われてしまう。だからショップに並んだ作品を見て、「こういう仕事をしているんだ」と理解してもらえたらいいなって。ショップを開いた理由は、私がどんな仕事をしているのかを島民の皆さんに知ってもらうためでもあるわけです。

私の作品は動植物をモチーフにしたものが多く、今までは図鑑を参考にしていました。でも豊島に来てからは魚や虫、野鳥、花などの「生きたお手本」が身近にあふれていて、じっくり観察しながら創作できるのが本当に楽しいんです!

都会にはいろんなお店やモノがあって刺激的だけど、私の場合は影響を受けすぎて、自分を見失ってしまう面もあったんです。海と山に囲まれた静かな島では「本当に自分が好きなもの」を見つめ直すことができ、その先にある「本当に自分が作りたいもの」に集中できるようになりました。また、豊島の観光マップなど、地元の方々からイラストの仕事を依頼されるようになったことも嬉しいですね。

ちなみに夫は太刀魚の漁獲量が年々減っていることから、漁業の傍ら、副業としてレモンの栽培を始めました。

彼はもともと近隣の柑橘農家さんたちをよく手伝っていたんですよ。そこで農家の知り合いが増え、自分も栽培にチャレンジしようと空いている畑の情報などを集めていたところ、西日本豪雨で畑に被害を受けた高齢の農家さんが「自分たちで再開するのは難しいから」と農地を貸してくださったんです。一から苗を植えるとなると大変ですが、全部の果樹がダメになっていたわけではなかったので新規就農者の夫にも始めやすい環境でした。一人で黙々と作業できる農業は、彼の性分に合っているみたいです。

生活の中での楽しみは?

家庭菜園が日々の楽しみです。「海のそばで暮らしたい」と並んで「田舎で畑仕事をしながら暮らしたい」という夢もあって、広島市内に住んでいたときもプランターで野菜を育てていました。昔は虫が苦手でしたが、畑にはいろんな虫がやって来ます。だから「当たり前にいるもの」として受け入れたら、いつの間にか平気になりました(笑)。自家栽培の新鮮野菜がいつでも食べられるので、スーパーで買うことはほとんどないですね。

不便に感じていることはありますか?

特にないですね。あまり利便性を求めない性格なのもあって、足りないもの・ことがあっても「そういうものだよね」と良い意味であきらめて、自分で工夫して楽しんでいます。田舎暮らしは不便を不便と思わない人が向いていると思いますね。

例えば私たちの家にはクーラーがないので、夏場は家から徒歩5分の海水浴場に毎日通って泳いでいます(笑)。また、移住したての頃はインターネット回線が整備されていなくて、イラストのデータが送信できないときもありました。でも今は島内にWi-Fiや光回線が開通しています。住み続けていると、良い方向に変わっていくこともあるんですよね。

移住して良かったことは?

ストレスを感じる機会が激減したこと。移住前は通学・通勤時の人の多さなどにイライラしていました…。創作活動やイラストの仕事、家庭菜園など自分の好きなことを時間に縛られずにできる今の暮らしは満ち足りていて、すごく幸せです。

それから、移住後は経済的にもラクになりました。広島市在住時にはお給料でどうやりくりしていくか計算しながら生きていたけれど、今は本当に必要なものだけにお金を使う生活に変わったことで、金銭的な束縛を感じにくくなりましたね。

移住を検討されている方へ伝えたいことは?

これからどう生きていくか考えている人には、都会じゃなくても生きていけるよ!と伝えたいです。豊島のような田舎での暮らしは、向いている人にとっては最高だと思います。都会での生活が窮屈に感じたら、島に限らず、のどかな呉市街地への移住を視野に入れてみてはいかがでしょうか。

【おりでさんの おすすめスポット】
島の自宅近くにある山。冬場の散策がおすすめです。冷たく澄んだ空気を感じながら歩みを進めると、鳥と虫の声しか聞こえなくなるのが好きなんです。

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